※ネタ的にヤバそうなものは赤線。





馬鹿な男 // 土沖

俺もアイツもわかっていた。この不毛極まりない行為の果て、なんて。
何を生み出すわけでもなく、何を失うでもなく。

「…楽しいか?」

我ながら馬鹿なことを聞いたと思う。
聞かれた本人は呆けたツラをして、その数秒後弾けるように笑い出した。
しまった。目の端に涙まで滲ませて、何を今更、だなんて。
意地の悪い笑いは暫く止まることがなく。

 






「大切なものは失くしてからその価値がわかる」とはよく言ったもので。
先人たちが耳にタコが出来るほど言っていたにも関わらず、その言葉は現実のものとなった。


「     」


曇り空の下に確かに響く名前。

静かに、静かに、世界が壊れだす。

 






夢で追いかける // 山→沖


振り向くたびに揺れる栗色。
早く、なんて笑って言うもんだから、焦って焦って、走って。
捕まえた。


途端跡形も無く消える人。
追いかけて、追いかけて、肩透かし。
どこだ、と見やればまた数歩先で「早く早く」。


いつだってそうだった。
立ち止まろうとしても、その人はそれを許さないもんだから足を進めるほか無い。
繰り返し後を追う自分。


1,2,3

1,2,3


解っていて、何度も繰り返す自分はどれほど滑稽だろうか。

そして夢が醒めても、また諦めきれず追いかけ続けるのだ。

 






手を繋ぐ // 土沖

時々、ふと思い出したように「繋げ」と強要してくる手を、呆れながらも毎回毎回繋いでやる。
月日を追うごとに大きくなるその手。
握り締めるとひんやり冷たいのだけは昔と変わらない。

「お前、毎度ながら手冷てぇな」
「心がホカホカなんもんで」
「お前限定でその迷信は無効」

無駄口を叩きながら、思う。
繋げと伸ばす手は決まって右手なもんだから、この数分の間は煙草が吸えない。
これは新手の嫌がらせなのか?ご苦労なことだ。

冷たい手に自分の体温が移ってすっかり暖かくなった頃。
飽きたのか満足したのか、するりとその手は抜けていった。

「どォも」
「イーエ」

また来る、と言って去る背中に来なくていいと念を押し、懐の煙草へと手を伸ばした。

 






それは酷くアンバランスな // 沖田

スピーカーからゆったりとバラードの曲が流れる。
無音の空間に飽きて、何となくつけたその辺に転がっていたラジオ。
甘く柔らかい歌声。歌詞。知らず同じように口ずさんだ。

春の木漏れ日のような曲を口ずさみながら、つい先ほど人を斬った刀の血を拭う自分はひどく滑稽なもののように思えた。
畳に落ちている元・人の腕の切断面が綺麗なことも。

血生臭い部屋。温かな歌。滲みこむ赤色。
アンバランスな光景に思わずわらって、ラジオを蹴り飛ばした。

そして一人、また無音の空間を横切り部屋を出た。