※ネタ的にヤバそうなものは赤線。





ねえねえ、あのね、 // 沖田(過去捏造)

記憶の中の小さな俺は大抵母に手を引かれている。
晴れた日はよく2人で手を繋いで散歩へ出かけた。見たもの見たもの新鮮で、盛んに「あれは?」と問いかけては笑顔で答えてくれた母。
そんな母に自分も微笑んで。
暖かな手がきゅっと手を握ってくれたのだけは、今でも鮮明に覚えている。

最後に見た彼女は白い棺の中だった。
暫くぶりの再開だというのに眠ってばかりの母に少し悲しくなった。

どこいってたの? おきてよ もうひるだよ ねぇきいて、 かあさん あのね  

起きるはずも無い母に無邪気に語りかけた「死」を知らなかった小さな自分。
いつものように繋いだ手は体温も何も無かった。
泣いている姉が、妙に印象的だった。

ねえねえ、あのね、
 






つめたくなる体 // 土←沖


呼吸を止めたその体はまだ生ぬるかった。
俺はそれを初めて見るような、不思議な気持ちですらあった。
(何年顔を見合わせたかもわからないくらい、なのに)

肌に触れる。温かい。
『生きていた』。
薄っすらと開いた目を柔らかく閉じてやる。
これで完璧だ。もう、「生きてはいない」と実感できる。

ポロリと、唐突に涙が零れ落ちた。
それは止まる事を忘れたかのように、流れ続ける。

(あぁ、おれはかなしいんだ)

冷たくなる体に、俺はとうとう嗚咽をあげて縋りついた。

そう仕向けたのは自分だ、ということは、その時は忘れていた。




今までにない類のリアルな夢。今朝の悪夢。
(幾度と無く同じ行為を繰り返したというのにね)


 






平和な日 // 沖田

ぶわっと一陣、風が通り過ぎた。
髪が横に後ろにと乱雑な動きを繰り返す。
まぁ元々髪型を気にするような性格でもなかったからどうでもいいと言えばどうでもいいのだ、本当のところ。
しかし「みっともねぇ姿で外出歩くんじゃねェェ!!」とやたら五月蝿い人が居るから、風が去った後やれやれと舌打ちしながら元のように適当に撫で付けておいた。これなら文句言うまい。

見回りと称してデスクワークから逃げ出したその足でブラブラと商店街を歩いてみるものの、犯罪の多発する江戸だからと言って特にこれと言った事件は無い。
強いて言えばさっきの突風で自転車の大群が集団横倒しの憂き目にあっていることくらいだろうか。全く平和なものだ。

まっすぐ5分、丁度4つ目の角を右に曲がって馴染みの野良猫にコンニチハ。ふわっ、と暢気にあくびだけ返された。
じゃあな、と軽く会釈して、そのまま真っ直ぐ道なりに。
程よく坂道を上れば見慣れた駄菓子屋が現れた。

いつものように安い水色のソーダアイスだけを買って、店を出てからぐっと背伸びした。
温い風に短い髪が遊ばれる。少し伸びた前髪は思いのほか邪魔だったので、帰ったら山崎にでも切らせようと思った。

帰り道は来た道を逆方向へ。
見かけた猫が同じ場所で、尻尾を風に揺らされながら日向ぼっこを楽しんでいる。

(なんて平和な日!)

早くも溶け出したソーダアイスをかじりながら、上機嫌で屯所への道を再び進み始めた。