ひっそりとした路地裏のゴミ置き場。
たまたま、通りかかったら血の臭いがしたもんだから「あーあいくらなんでもそりゃねぇだろ俺、関わんなよなぁもー…」などとボヤきながらひょいと覗き込んだ。なんとなく。
見ると、見慣れた茶色い髪の毛の子どもが一人。蹲ってるそれに「こんにちは」なんていつもの無表情で挨拶された。

「…どしたの、沖田君」
「や、ちょいと深追いしすぎて返り討ちに遭った、みたいな?」
「足?」
「うん、そう」

あんまりにもケロっと言うもんだから、あぁこの子放っといても大丈夫なんじゃね?なんて思いが頭を掠めた。
それでも見れば出血は相当なものなようだ。応急手当も知らないのだろうか。暗い路地に青白い顔だけが浮かんで見える。

(あらら、コレはマズイんじゃねぇの?)

ぱっと見はとても怪我人には見えない。それこそいつものように駄菓子屋前でサボっているかのような。
でも横顔はどうだ、脂汗が滲んでいる。
あぁこの子、痛いしダルくて動けないし辛いんだ、なんて妙に納得した。

「ケータイは?」
「…圏外」
「こんな街中でか?」
「……ヤなお人でィ、アンタは」
「そりゃドーモ」
「褒めてやしませんよ。あーあ、厄介な人に見つかっちまったィ」

薄暗い天を見遣って、心底、とでも言いたげに呟いた。



ふと、この間交わした言葉を思い出す。


『…別に、意地張ってるワケじゃねーんですけど』

『人に弱味見せたくないっていうか』

『心配とか、されるの嬉しいんですけどね、心配させてる自分が嫌いなんでさァ』

『だから、』

『弱味なんて無いように、痛みなんて感じてないように、ってしてるだけです』


なんて、ご立派なのかただの馬鹿なのか解らない持論をあの時聞いた覚えがある。

弱味を見せられない、と思うのは解らなくもない。負けず嫌いはお互い様だ。
ただその後がいけない。心配してくれる保護者(的、な人)が居るなら子どもは子どもらしく今のうちに存分に甘え倒してやればいいのだ。
何を遠慮するのか。それこそ今更。

確かに、嘘でも何でも貫き通せば立派な真実になる。
でもここでこうして何も出来ずただ「何か」を待っているなんて可笑しな話だ。
馬鹿にしているわけではない。これは哀れみだ。
不器用にしか生きられないこの子、とかへの。


「『助けて』って言ってごらんよ」

チラ、と虚ろな目がこちらへ向く。理解出来ただろうか?

「そしたら、屯所に連れてくなり隊士を呼ぶなり、してあげるよ?」

ゴメン、これはちょっとした悪戯だ。そして俺の我侭。
(俺には縋って欲しい、なんて、)

ややあって言葉をやっと理解したのか、ぽかんと開けられた目と口。流石に呆れたか、と思いきや。
細められる目。笑っている。

「だーれが言うかこの天パ。…なんて、言ってられる状況でもねぇんで、お願いしやしょーか」


「…『助けて』」


青白い顔で、不敵に笑って。
あぁもう何て負けず嫌い!これだからガキは。

「しょーがねーなぁ…」
「言えって言ったの旦那じゃねぇですか。何様なんでィアンタ」
「いやいや、そうじゃなくて…まぁいいか」

ひょい、と軽くも重くもない体を抱き上げる。
「隊士に連絡するだけでいいんですけど」と腕の中の子どもは携帯をチラつかせたけれど、「それはまた今度」と黙らせた。

「勿論自分で連絡しなさいね、恥ずかしがらず」
「誰が恥ずかしがったんでィ」
「違う?」
「違う」
「ふぅん」

それから随分歩いて、腕もしびれて。あれ屯所ってどこだっけ?とボケをかましそうになった頃。
急に耳元で小さく声が聞こえた。

「…自分だって、ひとりでなんとかしようとするくせに」

不意を、衝かれた。立ち止まったりはしなかったけど。
そう、本当はこの子も気づいている。だけど今更変えたり止めたり出来ないのは性格だ。

「何とかならなかったら、でっけぇ声でお前を呼んでやるよ」
「嘘つき」
「即答かよ」
「だってアンタにはチャイナ娘とメガネが居るじゃねぇかィ。俺には真選組。そこはもう変えられねぇだろ?」
「わかってんじゃねぇか」
「へぇ。だから、これは借りでさァ」

呟くように、言うのは血が足りてないからかもしれない。
それでもしっかりとした口調はとまらない。ゆっくり、でも確実に音を紡ぐ。

「借りは、返しやす。金銭以外で、熨斗つけて」

あぁこれは良い予感がしないはずだ。
ニヤっと、貼り付けたような笑み。

…こンの、クソガキめ!





不器用な子供 2
「不器用な子供」のフォロー話(?)。