コロンと落ちていた屍骸を楽しそうにクシャリと踏み潰す子供。
残酷だなぁ、と思いながら私はじっとそれを眺めていた。

傍に居た子供の母親が、子供の無邪気な遊びに顔を顰めて「やめなさい」と手を引く。
子供は少し残念そうな顔をして、母親と一緒に歩き出した。


私の足元には、さっき子供が踏み潰した蝉の屍骸が1つ。

それは原型など解らないほど悲惨なものに成り果てていた。
羽も胴体も足も粉々だ。もしかしたらこれは蝉じゃなかったのかもしれない、とすら思う。


この元・蝉だったものはどうなるのだろう。
焼けるアスファストに置き去りにされたバラバラ死体。
蟻の栄養分になるのだろうか?だとすれば運びやすい大きさになって、さぞかし蟻は子供に感謝するだろう。
それとも蟻にすら見つけてもらえずに、車に踏まれて更にバラバラになって、そのまま風に飛ばされてしまうのだろうか。
それもまた人生なのか。いや、蝉だから『人』生じゃないか。蝉生?何て読むのこれ。


つらつらと考えながら歩き出す。
これ以上事務所に着くのが遅れるとあの化物に何をされるかわからない。

それこそあの蝉みたいにバラバラにされてアスファルトに放置、なんてことになりかねない。
この暑さでは蟻に運ばれる前に私が腐ってしまう。


歩きながら、さっきの子供と蝉について考えた。
役割的に、私が『バラバラ死体にされる蝉』なら、ネウロは明らかに『子供』だ。
きっと楽しそうに私を引き千切るんだと思う。悪趣味にも程がある。
私には顔を顰めて止めてくれる『母親』の役割をこなしてくれる素敵な人は居るんだろうか?

…キツいな、無理か。いや待て一人ピッタリの人材がいるじゃないか!


ひんやりと涼しい事務所に駆け込んですぐ、遅いぞこのセミめ、などとグッドタイミングでのたまった化物は一先ず無視。
さっさと目的の場所へ行って、ぐっと「彼女」を握り締めた。

もしもの時はヤツを止めてね!よろしくあかねちゃん!!

困惑しながらもしっかり頷いた艶やかな髪に安心したので、とりあえず私は蝉の死骸にはならなくて済むかな、とホっとした。




蝉の死骸